取引先へのメールを作成中、上司から「ここの『その製品』は、『当該製品』に修正して」と赤入れが…。
ご安心ください。その悩み、痛いほどわかります。私も20代の頃、同じ指摘を受けて「一体何が違うんだ?」と頭を抱えた一人です。
しかし、この一見小さな言葉の違いこそが、あなたの文章を「学生のレポート」から「プロのビジネス文書」へと進化させる重要な鍵なのです。
この記事を読めば、なぜ上司がそう指摘したのかが明確に理解でき、今後二度と迷うことなく「当該」を使いこなせるようになります。上司の赤入れを、あなたの成長の糧に変えましょう。
[著者情報]
この記事の書き手
鈴木 誠(すずき まこと)
元・大手商社 営業部長 / ビジネスコミュニケーション・コンサルタント
30年以上の商社勤務で、数千件以上の契約書や提案書をレビュー。若手時代には、言葉の曖昧さが原因で大きなトラブルになりかけた経験も。その経験から、特に若手社員が「今さら聞けない」と感じるビジネス用語や文書作成術の研修を年間50社以上で行う。「言葉は、君の仕事を円滑にする武器になる」が信条。
なぜ上司は「その」を「当該」に直したのか?言葉の裏にあるビジネスリスク
「『その』でも意味は通じるのに、なぜわざわざ堅苦しい『当該』に?」と感じるかもしれませんね。研修で若手の皆さんから本当によく受ける質問です。
上司があなたの文章を修正した理由は、単にフォーマルな言葉を使いたいからではありません。それは、言葉の「解釈のブレ」が引き起こすビジネスリスクを未然に防ぐためです。
例えば、メールの中でA製品とB製品、二つの話題が出てきたとします。その文中で単に「その製品の納期は…」と書いた場合、読み手によってはA製品のことだと解釈し、別の読み手はB製品のことだと解釈する可能性がゼロではありません。
口頭なら「その製品って、Aのことですよね?」と確認できますが、文面だけが一人歩きするビジネスメールや契約書では、この小さな認識のズレが、後の大きなトラブルに発展しかねません。
つまり、「誤解防止」という目的を達成するための有効な手段が、「当該」という言葉なのです。 あなたの文章を、誰がいつ読んでも一つの意味にしか捉えられない、明確でプロフェッショナルなものにするために、上司は指摘を入れてくれたのです。
【結論】「当該」「該当」「その」違いが一目でわかる比較表
では、核心である3つの言葉の違いを整理しましょう。「当該」と「該当」はよく混同されますが、指す対象が全く異なる、比較すべき言葉です。 一方で、「当該」は「その」よりも特定性が高くフォーマルな表現であり、上位関係にある言葉と理解するとスッキリします。
ポイントは「何を指し示しているか」です。「当該」は特定の“一つ”を指すマーカー、「該当」は条件に合うものを探すフィルターだとイメージしてください。
| 📊 比較表 表タイトル: 「当該」「該当」「その」の使い分け早見表 |
言葉 | 指すもの | 使う場面(イメージ) | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 当該 (とうがい) |
前に出た「特定の1つ」 (まさに、それ) |
文書やメールで、誤解なく特定の一つを指し示したい時。 | 主に書き言葉。会話で多用すると堅苦しい。 | |
| 該当 (がいとう) |
ある条件に「当てはまるもの」 (複数ある可能性も) |
「条件に合う方はお知らせください」など、条件に合うものを指す時。 | 「該当する」と動詞で使えるが、「当該する」とは言わない。 | |
| その | 一般的な指示語 (あれ、それ) |
誤解の恐れがない、一般的な会話やカジュアルなメール。 | 複数の対象が文中にある場合、指すものが曖昧になるリスクがある。 |
【実践】もう迷わない!ビジネスメールで今すぐ使える「当該」の例文集
それでは、あなたが今まさに直面しているビジネスメールの文脈で、具体的な使い方を見ていきましょう。これで、自信を持って文章を修正できるはずです。
OK例:上司の指摘通り、「その」を「当該」に修正するケース
複数の製品についてやり取りしているメールを想定してみましょう。
【Before】(修正前)
先日お打ち合わせにてご説明いたしましたA製品、およびB製品の件でご連絡いたしました。
つきましては、その製品の仕様書を本日中にお送りいただけますでしょうか。
【After】(修正後)
先日お打ち合わせにてご説明いたしましたA製品、およびB製品の件でご連絡いたしました。
つきましては、当該製品(A製品)の仕様書を本日中にお送りいただけますでしょうか。
【なぜ良いのか?】
Afterの文では、「当該製品」が直前のA製品とB製品のうち、どちらを指すのかが曖昧です。そこで「当該製品」とすることで、「今話題の中心であるA製品」を明確に指し示すことができます。さらに(A製品)と補足すると、より丁寧で誤解がありません。
NG例:「当該」と「該当」を混同してしまうケース
【NG例文】
以下の条件に当該する方は、セミナーにお申し込みいただけます。
【OK例文】
以下の条件に該当する方は、セミナーにお申し込みいただけます。
【なぜNGか?】
「条件に当てはまる」という意味で使えるのは「該当」だけです。「当該」はあくまで「前に出てきた特定の何か」を指す言葉なので、この文脈では使えません。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 迷ったら、「『前に出てきた、まさに“ソレ”』と言い換えられるか?」を自問自答してみてください。
なぜなら、この思考法が一番シンプルで強力な判断基準になるからです。多くの若手は難しく考えすぎてしまいますが、本質は「特定の一つを指すか、条件に合うものを指すか」の違いだけです。この自問自答でYESなら「当該」、NOなら他の言葉を検討する。この癖をつけるだけで、もう迷うことはありません。
【応用】「当該」を使いこなすためのQ&A
最後に、皆さんが抱きがちな補足的な疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q1. 会議や電話など、会話で使ってもいい?
A1. 使わない方が無難です。
「当該」は主に書き言葉です。会話の中で「とうがいの件ですが…」と使うと、非常に堅苦しく、少し偉そうな印象を与えてしまう可能性があります。会話では「例の件」「先日お話しした件」や、シンプルに「その件」など、より自然な表現を使いましょう。
Q2. 類語である「件の(くだんの)」との違いは?
A2. フォーマル度が違います。
「件の(くだんの)」も「例の、話題になっている」という意味で、指し示す対象を特定する言葉です。しかし、「当該」が契約書などでも使われる極めてフォーマルな書き言葉であるのに対し、「件の」は少し文学的な響きがあり、ビジネス文書よりは会話や小説などで使われることが多いです。ビジネスメールでは「当該」を使うのが一般的です。
Q3. 使いすぎると、くどい印象になりますか?
A3. はい、なります。
明確さが求められるからといって、一つのメールで「当該」を連発すると、非常にくどく、読みにくい文章になってしまいます。本当に誤解を生む可能性がある、ここぞという重要な箇所で一度か二度、効果的に使うのがスマートなビジネスパーソンの言葉遣いです。
まとめ:言葉選びの不安を、ビジネスを前に進める自信へ
この記事の要点を、最後にもう一度確認しましょう。
- 「当該」は、誤解の余地をなくし、ビジネスリスクを回避するための重要な「武器」である。
- 「当該」は“特定の一つ”、「該当」は“条件に合うもの”、「その」は一般的な指示語と覚える。
- ビジネスメールで複数の対象が出てきた時に、「その」を「当該」に置き換えることで、文章の明確性が格段に向上する。
上司からの指摘は、決してあなたを責めるためのものではありません。あなたに、より信頼されるビジネスパーソンへと成長してほしいという期待の表れです。
今日のこの小さな気づきが、あなたの言葉選びへの不安を、ビジネスを力強く前に進める自信へと変えてくれるはずです。
まずは、指摘されたメールを自信を持って修正してみましょう。応援しています。


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